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広島地方裁判所 昭和63年(行ウ)14号 判決 1991年3月27日

広島県庄原市本町一二三〇番地

原告

有限会社伊達デパート

右代表者代表取締役

伊達

右訴訟代理人弁護士

椎木緑司

広島県庄原市三日市町字下の原六六七の五

被告

庄原税務署長 松田清

右指定代理人

河田俊夫

川田幸利

矢野聡彦

東京都千代田区霞ケ関三-一-一

国税庁内

(送達場所 広島市中区上八丁堀六-三〇 広島合同庁舎内)

被告

国税不服審判所長 杉山伸顕

右指定代理人

佐々木輝明

荒木稔

被告両名指定代理人

橋本良成

岡田泰徳

主文

一  被告庄原税務署長が原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで及び同年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度の法人税の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定に対する異議につき昭和六二年一〇月一三日付でした原告の申立てを棄却する旨の決定の取消しを求める部分の訴えを却下する。

二  原告の被告人庄原税務署長に対するその余の請求及び被告国税不服審判所長に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告庄原税務署長が、昭和六二年六月二六日付でした、原告の昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで及び同年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度の法人税の各更正及び各過少申告加算税の賦課決定を取り消す。

2  被告庄原税務署長が、昭和六二年一〇月一三日付でした、右各更正及び各過少申告加算税の賦課決定に対する原告の異議申立てを棄却する旨の決定を取り消す。

3  被告国税不服審判所長が、昭和六三年六月九日付けでした、右各更正及び各過少申告加算税の賦課決定に対する原告の審査請求を棄却する旨の裁決を取り消す。

4  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  被告庄原税務署長

(本案前)

(一) 主文第一項と同旨

(二) 右訴えに係る部分の訴訟費用は原告の負担とする。

2  被告両名

(本案)

(一) 原告の請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は衣料品等の小売業を営む同族会社であるが、昭和五九年五月二五日及び昭和六〇年五月三一日に開催された定時総会において、それぞれ別表1のとおり、役員報酬の限度額を決議し、昭和五九年及び昭和六〇年の各一二月三一日に開催した取締役協議会において、それぞれ別表2のとおり、翌年一月分から各取締役の報酬月額を増額改定することを決議した。そして、昭和五九年四月一日から昭和六〇年三月三一日まで及び同年四月一日から昭和六一年三月三一日までの各事業年度(以下、「本件各事業年度」という。)末に、別表3のとおり、各役員報酬増額改定差額(昭和六〇年三月期分一二〇万円、昭和六一年三月期分三〇〇万円)を一括未払計上した。なお、本件各事業年度における役員報酬の増額改定及び支給状況は、別表4のとおりである。

2  原告は、本件各事業年度の法人税について、右未払計上額を所得金額の計算上損金の額に算入して、それぞれ確定申告及び修正申告をしたところ、被告庄原税務署長は、右未払計上額を役員賞与と認定してその損金算入を否認し、各更正及び各過少申告加算税賦課決定を行つた。右経過は別表5のとおりである。

右処分に対し、原告は異議の申立てをしたが、被告庄原税務署長は昭和六二年一〇月一三日これを棄却し、更に、原告は適法な審査の申立てをしたが、被告国税不服審判所長は昭和六三年六月九日これを棄却し、右裁決書謄本は、同月一七日、原告に送達された。

3  しかし、右各更正及び各過少申告加算税の賦課決定並びに異議決定及び審査裁決は、次の理由により違法である。

(一) 原告は、昭和五九年及び昭和六〇年の各一二月三一日に開催された取締役協議会での報酬増額決定に基づいて、本来は各翌年一月から報酬を増額すべきところ、年初は年末と異なり資金繰りがよくないので、比較的資金繰りの余裕ができる本件各事業年度末に、増額改定差額を一括未払計上したものであるから、右未払金は、臨時的な給与とはいえない。

(二) また、右各報酬増額決定に基づいて、昭和六〇年及び昭和六一年の各四月以降も増額改定後の額が継続して支給され、毎月の定額支給が増額(いわゆる昇給)されたものといえるから、未払計上額分だけの臨時的支給ではない。

(三) 法人税法三五条四項に規定される役員賞与と役員報酬の区別は、臨時的な給与であるか否かという給与の支給形態のみでなく、役員の業務執行の報酬性及び対価性があるかどうか及び取締役会の自治、株主総会の決議も重要視して、その実質からも判断すべきであるところ、本件未払金は、労働に対する利得ないし生活の保障としての継続的な毎月の給与の昇給に相当するものであり、適正な役員報酬に該当する。

したがつて、本件未払計上額は、所得金額の算定上損金に算入すべきであり、これを役員賞与と認定して損金算入を否認したのは違法である。

二  被告庄原税務署長の本案前の申立ての理由

本件異議決定は昭和六二年一〇月一三日付でなされ、原告は、その異議決定書の謄本が送達された同月一四日に右異義決定があつたことを知つたというべきところ、本訴は同日から三箇月経過後である昭和六三年七月二二日に提起され、出訴期間を徒過したものであることは明らかであるから、右異議決定の取消しを求める部分の訴えは却下されるべきである。

三  本案前の申立ての理由に対する反論

原告は、異議決定後適法な審査請求の申立てをし、これに対する裁決のあつたことを知つたときから法定の出訴期間内に本件訴えを提起しているから、右訴えは適法である。

被告庄原税務署長の主張によれば、一方で審査請求をすると同時に訴えの提起をしなければ出訴期間を徒過した不適法な訴えとなるから、右主張は、審査請求制度を無視することになり、また、審査裁決と判決の判断が異なる場合も生じうるから著しく不合理である。

四  請求原因に対する被告両名の認否

1  請求原因1のうち、原告が衣料品等の小売業を営む同族会社であること、主張の定時総会において役員報酬の限度額が主張のとおり決議されたこと、原告が、本件各事業年度の一月ないし三月分の役員報酬の未払分として、原告主張の額を主張のとおり未払計上したこと、本件各事業年度における役員報酬の増額改定及び支給状況が別表4のとおりであることは認める。その余の事実は不知。

2  請求原因2は認める。

3  請求原因3(一)のうち、原告主張の事実は不知。未払金が臨時的な給与とはいえないとの主張は争う。

4  同3(二)のうち、四月以降も増額改定後の額が継続して支給されたこと(但し、昭和六〇年分については、五月以降に増額改定後の額が支給されている。)は認める。その余は争う。

5  同3(三)は、争う。

五  被告両名の主張

1  法人税法上、退職給与を除き他に定期の給与を受けている者に対する臨時的な給与は、たとえ支給の時期及び額が予め定められていたとしても賞与に該当し、報酬と解する余地はない。そして、右臨時的な給与とは、その支給時期、回数、金額、趣旨等を総合的に考察して、経常性のない一時的な給与と認められるものをいうと解すべきであるところ、本件における各役員に対する給与の支給状況、本件未払計上額の支給の時期、回数、金額に徴すると、未払計上した各事業年度末である昭和六〇年三月及び昭和六一年三月の一回に限りその他の月の支給額を上回つて計上したというべきであるから、本件未払計上額は臨時的な給与に当たり、賞与に該当する。したがつて、本件各更正は適法である。

2  また、更正により納付すべきこととなつた法人税額を基礎とし、国税通則法(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)六五条一項を適用してなされた本件各過少申告加算税の賦課決定も、原告が役員賞与に該当する本件未払計上額を役員報酬であるとして損金の額に算入して過少申告したことにつき、同条四項所定の正当な理由が認められないから適法である。

六  被告国税不服審判所長の主張

原告は裁決固有の違法を主張するものではないから、行訴法一〇条二項により本件裁決の取消しを求めることはできない。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

第一本案前の申立てについて

一  課税処分に対する異議申立てに対して税務署長がした決定の取消しを求める訴えは、裁決の取消しの訴え(行訴法三条三項)に該当するから、異議決定があつたことを知つた日から三箇月以内に提起しなければならない(同法一四条一項)。もつとも、同法一四条四項は、右出訴期間は、当該処分又は裁決につき審査請求できる場合において、審査請求があつたときは、その審査請求をした者については、これに対する裁決があつたことを知つた日から起算する旨定めているが、税務署長がした異議決定に対する不服申立ては許されないから(国税通則法七六条一項、七五条一項)、右異議決定の取消しを求める訴えには、行訴法一四条四項の適用はない。このように取り扱われても、右取消しの訴は右決定の固有の瑕疵の是正を目的とするものであり(同法一〇条二項)、異議申立ての対象となつた課税処分に対する審査請求とその目的を異にするから、原告主張のような不合理はない。

被告庄原税務署長による本件異議決定は昭和六二年一〇月一三日になされ、その異議決定書の謄本が翌一四日原告に送達された(この事実は原告の明らかに争わないところである。)から、原告は同日右異議決定があつたことを知つたというべきところ、本訴は右の日から三箇月経過後の昭和六三年七月二二日に提起されたものであることは記録上明らかである。してみると、本件訴えのうち、被告庄原税務署長による異議決定の取消しを請求する部分は、出訴期間を徒過した後に提起された不適法なものというべきであり、却下を免れない。

第二本案について

(本件各更正及び過少申告加算税の賦課決定について)

一  原告が本件各事業年度末に各一月ないし三月分の役員報酬の未払分として、原告主張の額を計上し、右各事業年度の法人税の確定申告及び修正申告の際右未払計上額を損金の額に算入したこと及び右各事業年度における役員報酬の増額改定及び支給状況が別表4のとおりであることは当事者間に争いがない。

二  そこで、右未払計上額が損金に算入されるべき役員報酬に該当するかについて判断する。

1 法人税法上、役員に対する報酬は不相当に高額でない限り法人所得の計算上損金の額に算入することができる(三四条一項)のに対し、役員賞与は損金の額に算入されない(三五条一項)。そして、役員報酬とは、役員に対する給与のうち賞与及び退職給与以外のものをいい(三四条二項)、役員賞与とは、役員に対する臨時的な給与のうち、他に定期の給与を受けていない者に対し継続して毎年所定の時期に定額を支給する旨の定めに基づいて支給されるもの及び退職給与以外のものをいう(三五条四項)と規定されている。右規定によれば、役員報酬と役員賞与は、専ら「臨時的な給与」か否かという支給形態を基準として、区別されていると解すべきである。したがつて、右臨時的な給与とは、その支給の時期、金額、支給回数等を、年間のその他の給与の支給状況全体との関連において考察し、これによつて当該給与が経常性のない一時的なものと認められるものというと解するのが相当である。

2 これを本件についてみると、前記認定の事実によれば、前記未払計上された金額は、それぞれ昭和六〇年五月及び昭和六一年四月に一括して各役員に対する支給され(各役員に対する支給額は別表4のとおりである。なお、昭和六〇年五月二五日には同年四月分の増額改定差額も加えて支給されている。)、そのため右の月の支給額に限って他の月のそれを大幅に上回つており、右支給の時期、金額、回数並びに各役員に対する報酬の支給状況に照らすと、右支給は経常性があるとは到底いえず、定期の給与を受けている役員に対する臨時的な給与に該当するというべきである。したがつて、前記未払計上額は役員賞与であつて、役員報酬の未払金ということはできない。

3 原告は、昭和五九年及び昭和六〇年の各一二月三一日に開催された取締役協議会での役員報酬増額決定に基づいて本来は各翌年一月から報酬を増額支給すべきところ、年初は年末と異なり資金繰りがよくないことから右増額支給を遅らせ、比較的資金繰りの余裕ができる本件各事業年度末に、増額改定差額を一括未払計上し、その後は、増額改定額は継続して支給されているから臨時的な給与ではないと主張するが、右取締役協議会において右増額決定されたかについて、これに沿う原告代表者本人尋問の結果は、成立に争いのない乙第一一ないし第一三号証及び証人実久絹子の証言に照らして信用できず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。のみならず、仮に、原告主張の右事実が認められるとしても、本件各事業年度の各一月から増額支給せず、各三月末に一括して未払計上し、これをそれぞれ昭和六〇年五月及び昭和六一年四月に実際に支給した以上、その後増額改定額を継続して支給していても、右五月及び四月に支給された増額分はその月に限つて支給れた経常性のない臨時的な給与であるということができるから、原告の右主張は採用できない。

更に、原告は役員賞与と役員報酬の区別は、役員の業務執行の報酬性や対価性の有無等の実質からも判断すべきであると主張するが、法人税法は前示のように臨時的な給与か否かによつて区別しているのであるから、右主張も採用できない(しかも、本件の場合前記支給された増額分について右対価性の有無を判定することは極めて困難である。)。

以上によれば、本件未払計上額は臨時的な給与にあたるから、右金員を役員賞与と認定して損金算入を否認してした本件各更正に原告主張の違法はない。したがつて、また国税通則法の規定により被告庄原税務署長が本件過少申告加算税を賦課決定したことも適法である。

(裁決について)

裁決の取消しを求める訴えにおいては、原処分の違法を理由とすることはできない(行訴法一〇条二項)ところ、原告は、審査裁決固有の違法を主張するものではない(なお、成立に争いのない乙第一号証によれば、被告国税不服審判所長は、裁決をするに当たり、原告及び原処分関係資料を調査したことが認められ、また、右被告が被告庄原税務署長の主張をそのまま鵜のみにし、第三者的立場にたつて原告の事情を検討、評議しなかつたことを認めるに足りる証拠はない。)から、右審査裁決の取消しを求める請求は理由がない。

第三結論

以上によれば、原告の請求中、被告庄原税務署長のした異議決定の取消しを求める部分の訴えは、不適法としてこれを却下し、被告庄原税務署長に対するその余の請求及び被告国税不服審判所長に対する請求は理由がないからいずれもこれを棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡浩 裁判官 内藤絋二 裁判官 柴田美喜)

別表1

定時社員総会決議の額

<省略>

別表2

役員報酬月額

<省略>

別表3

本件未払計上額の内訳

1 昭和60年3月期分未払計上額

<省略>

2 昭和61年3月期未払計上額

<省略>

別表4 役員報酬の額の増額改定及び支給状況

<省略>

別表5

<省略>

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